雪女の涙 mythology story for 7-12 years children in Japanese featuring mysterious themes

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雪女の涙

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"「いやぁ…なんだか、ひやりとしますねぇ。今夜はね、ある炭焼き職人の男が体験した、世にも不思議な物語なんです…」 猛吹雪の夜、炭焼きの藤吉は山で完全に道を見失っていました。体は凍え、意識も朦朧とし始めた、その時。闇の向こうに、ぽつんと温かい家の灯りが揺れているのが見えたのです。"
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"藁にもすがる思いでその家にたどり着くと、すぅ…と静かに襖が開き、中からひとりの女が現れました。雪のように白い肌、濡れたような艶のある黒髪。息をのむほど美しいその女は、「お雪」と名乗り、静かに微笑んで藤吉を家の中へと招き入れたのです。"
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"家の中は不思議なほど静かで、囲炉裏の火がぱちぱちと爆ぜる音だけが響いていました。お雪は藤吉の素性を何も聞かず、ただ黙って温かい粥を差し出します。その人間離れした美しさと、慈愛に満ちた優しさに、藤吉の心は急速に奪われていきました。"
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"藤吉はその日から、お雪の家で暮らすようになりました。それはまるで、夢のような日々でした。しかし、お雪は藤吉にたったひとつだけ、固い約束をさせたのです。「この家のいちばん奥にある『開かずの間』…あそこだけは、何があっても決して、決して覗いてはなりませぬぞ」"
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"しかし、人の心とは弱いもの。幸せな暮らしの中、藤吉は時折「開かずの間」の奥から、まるで赤子がむずかるような、か細い声が聞こえることに気づいてしまったのです。あれは一体、何なのだろうか…。禁じられた好奇心と得体の知れない恐怖が、彼の心をじわじわと蝕んでいきました。"
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"月が厚い雲に隠れた、ある夜のこと。お雪の静かな寝息を確かめた藤吉は、音を殺して床を抜け出しました。もう、我慢の限界だったのです。震える指で、ついに「開かずの間」の襖に手をかける…。ぎぃぃ、と軋む音が、静寂な家の中にやけに大きく響き渡りました。"
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"部屋の中に広がっていたのは、ぞっとするような光景でした。壁際にずらりと並べられた、おびただしい数のひな人形。しかし、よく見るとその人形たちの顔はどれも苦悶に歪み、まるで生きているかのように、侵入者である藤吉を怨めしそうに睨みつけていたのです。"
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"「…見て、しまいましたな」背後に響いたのは、氷のように冷たい声。振り返ると、そこに立っていたのは、藤吉の知っているお雪ではありませんでした。肌は青白く輝き、髪は逆立ち、その目は怒りと深い悲しみに燃えていました。彼女の周りには、荒れ狂う吹雪が渦巻いていたのです。"
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"「あそこにいるのは、約束を破った愚か者たちのなれの果て。わらわは呪いにより、愛した者を人形にせねば、永遠にこの姿のままなのです…」。お雪は泣いていました。「あなた様だけは、人形にしたくはなかった…」。彼女は、藤吉を心から愛してしまっていたのです。"
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"「さあ、お行きなさい!そして二度と、この山には…!」お雪は絶叫すると、藤吉を家の外へと突き飛ばしました。はっと我に返ると、藤吉は自分の炭焼き小屋の前で倒れていました。吹雪は跡形もなく消え、あの家も幻だったかのように消えています。ただ、その手には…なぜか一体の、のっぺらぼうの小さな人形が、固く握られていたということです。…ええ、今でもね、その山では雪の降る夜に、女の悲しい泣き声が聞こえるそうですよ。ひひひ…。"
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