"森の奥深く、木工職人のリアムは工房で木と向き合っていた。彼の心には「完璧」への執着、一種の燃え盛る情熱があった。「この木が持つ、唯一無二の完璧な形を、この手で引き出さねばならない」。彼の内なる声は、常にそう囁いていた。"
"しかし、その情熱はあまりに硬直的だった。わずかなズレ、予期せぬ木目。完璧な理想から外れるすべてが、彼の心の均衡を乱した。「なぜだ!なぜ理想通りにならない!」抑えきれない憤りが込み上げ、彼はノミを仕事台に突き立てた。"
"憤りに駆られ工房を飛び出したリアムは、森の奥深く、古代の木々の根元に座る賢者エララに出会った。彼女は静かに言った。「あなたの心に見えるのは、エニアグラムで言うところの『情熱』。それは、あなたを突き動かす力であると同時に、あなたを本質から遠ざける囚われでもあります」"
"「その『憤り』という情熱の奥には、本来のあなたが持つ『平静』という美徳が眠っています。情熱は消すものではなく、理解し、受け入れることで、美徳へと変容するのです。森の木々が、その道を教えてくれるでしょう」"
"リアムはまず、風雨に耐え、静かにそびえ立つ樫の木に向かった。その不動の姿から、彼は「あるがまま」を受け入れる強さを感じ取った。完璧ではない自分、思い通りにならない世界。そのすべてをただ受け入れる心の静けさ。彼はそこに「平静」という美徳の入り口を見つけた。"
"次に、風に逆らわず、しなやかに揺れる柳の木陰に立った。彼は、自分の力だけで全てをコントロールしようとしていた傲慢さに気づいた。木の持つ流れ、自然の摂理に身を委ねること。そこに「謙虚さ」という美徳の深さを知った。"
"そして、ありのままの姿で豊かな実をつけるリンゴの木から、彼は「誠実さ」を学んだ。完璧な作品を作ろうとする自分は、本当に木と向き合っていたのか。見栄や理想を捨て、ただ目の前の木と、自分自身の心に正直になることの大切さを悟った。"
"森での日々を経て、リアムの心は深く静まっていた。完璧でなければならないという内なる声は止み、代わりに穏やかな創造への意欲が湧き上がっていた。憤りの炎は、美徳という器の中で、静かで力強い光へと変わっていた。"
"工房に戻ったリアムは、新しい椅子作りに取りかかった。平静な心で木を選び、謙虚な姿勢で木の声を聞き、誠実な手つきで形を与えていく。もはやそこに憤りはなく、ただ木と対話する喜びだけがあった。"
"完成した椅子は、完璧ではなかった。しかし、そこには木の生命と、リアム自身の魂が宿っていた。彼は椅子に深く腰掛け、悟った。情熱の囚われから解放され、美徳と共に在る時、人は初めて、真に創造的な存在となり、自己の本質と一つになるのだと。"
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