BAJACOと北へ drama story for 13-18 years children in Japanese featuring tense themes

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BAJACOと北へ

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"僕の相棒、XLR250Rと別れてから、心にはずっと穴が空いていた。もう一度あいつのようなバイクに乗りたい。そして、まだ見ぬ島々をフェリーで旅するんだ。その夢を叶えるため、はるばる鹿児島からBAJACOを連れてきた。2013年4月7日、僕とBAJACOの旅が始まる。荷物を満載したBAJACOは、サイドスタンドを立てても、ほぼ垂直だ。倒れないように、そっと跨る。"
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"名古屋を出発し、高速道路をひた走る。BAJACOの心臓の音を聞きながら、ナビが示す北を目指す。恵那あたりで、空が泣き出した。ポツポツと降り始めた雨は、すぐに本降りになった。レインウェアを着込んだけれど、足元の長靴だけが頼りだ。"
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"妙高に近づくと、雨と風はさらに強くなった。豊田飯山の長い上り坂。荷物の重さと強い向かい風で、BAJACOのスピードがどんどん落ちていく。トップギアのままでは、時速60キロを保つのがやっとだ。これでは危ない。"
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"燃費のことは一瞬忘れて、僕はギアを一つ蹴り落とした。BAJACOが力強く応え、ぐっと前に進む。なんとか坂をのぼりきり、最後の長いトンネルに飛び込んだ。暗闇の中、BAJACOのヘッドライトだけが頼りだ。"
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"長いトンネルを抜けた瞬間、ご褒美のような青空が僕たちを待っていた。さっきまでの嵐が嘘のように、空はどこまでも青く、光が僕とBAJACOを包み込んだ。思わずヘルメットの中で笑みがこぼれる。"
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"新潟の上越に着くと、今度は台風のような暴風が吹き荒れていた。これはもう「風」じゃない。「暴風」だ。急いでホテルを探し、チェックインの準備をする。荷物を降ろすため、少しだけBAJACOから目を離した、その時だった。"
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"「ガシャン!」という無慈悲な音。振り返ると、BAJACOが暴風に煽られて倒れていた。数日前に付け替えたばかりの、お気に入りの赤いグリップエンドが、ぐにゃりと無残に曲がってしまっている。"
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"ホテルの人が心配そうにこちらを見ていた。「見てたのね」と、少し照れながら部屋に入る。荷物を整理していると、急にBAJACOが心配でたまらなくなった。彼女は、独りで大丈夫だろうか。"
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"僕は部屋を飛び出し、駐車場へ戻った。BAJACOは、倒された場所で静かに僕を待っていた。誰かが起こしてくれたのだろうか。ほっとした僕は、彼女の冷たいタンクを、優しく数回叩いた。"
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"「ごめんな、痛かったよな」。言葉には出さないけれど、きっとBAJACOには伝わっているはずだ。人生の荒波も、旅の嵐も、こいつと一緒なら乗り越えられる。僕たちの旅は、まだ始まったばかりだ。"
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