"俺たちは鬼。この鬼ヶ島で、ごく当たり前の生活を送っていた。人間たちが「恐ろしい」だの「悪者」だの好き勝手言っていたが、それは彼らの都合だ。俺たち酒天はただ、この島で俺たちの流儀で生きていただけ。時折、人間界に顔を出すこともあったが、それは必要なものを取りに行くため、あるいは少しばかり彼らをからかって楽しむため。別に、彼らを根絶やしにしようなどと考えたこともなかった。"
"しかし、あの日、すべてが変わった。そいつは、桃から生まれたとかいう奇妙な男、「桃太郎」と名乗った。最初見た時、俺たちと五郎は笑った。あんな小童が、一体何ができる? だが、そいつの目は違った。ただならぬ狂気、そして底知れない欲望が渦巻いていた。犬、雉、猿を従え、まるで自分の手足のように操るその姿は、おぞましかった。動物たちも、妙に人間じみた、狡猾な目をしていたのを覚えている。"
"「鬼を退治しに来た」と、そいつは平然と言い放った。まるで、俺たちの存在自体が罪であるかのように。問答無用だった。俺たちの言い分など、聞く耳も持たなかった。"
"自慢の金棒も、こいつの刀の前では無力だった。倒れていく仲間たちの呻き声が、今も耳に焼き付いている。"
"大将の金太郎が倒れた時、俺たちはすべてを悟った。こいつは、正義の仮面を被った、ただの略奪者だ。俺たちの宝を奪い、俺たちの住処を荒らすためだけに、この島へやってきた。"
"「二度と人間界を荒らさない」と誓わされたが、それは口実だ。俺たちからすべてを奪い、もう何も持たない状態にすることが目的だったのだ。"
"奴は満足げに宝を運び出し、何も残さず去っていった。残されたのは、荒らされた鬼ヶ島と、深い絶望感だけだった。"
"あれ以来、俺たちは細々と暮らしている。かつての活気は失われ、島全体が死んだように静まり返っている。"
"桃太郎は人間界で英雄と祭り上げられているだろう。だが、俺たち鬼にとって、奴は疫病神であり、すべてを奪い去った悪魔でしかない。"
"あの日の桃太郎の冷酷な瞳を、俺は決して忘れない。"
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