"SNSで知り合った友人、ケンジに誘われ、アヤノは山奥の村へと足を踏み入れた。そこは、深い霧に覆われ、時間が止まったかのような静寂に包まれた場所だった。「よく来たね、アヤノ。ここが僕の故郷だよ」ケンジは、どこか浮かない顔でそう言った。"
"村はずれの一軒家に着くと、ケンジは重い口を開いた。「この村には、昔から伝わる風習があるんだ。『闇土葬』って言ってね。故人を火葬せずに、そのまま土に埋めるんだ」。アヤノは、その言葉に眉をひそめた。奇妙な風習だと思ったが、ケンジの祖母の葬儀だというので、深くは尋ねなかった。"
"夕刻、村人たちが集まり始めた。彼らは皆、顔色の悪い、無表情な人々だった。アヤノは、その視線が自分に向けられているような気がして、背筋が寒くなった。ケンジは、そんなアヤノの様子に気づくことなく、儀式の準備を進めていた。"
"儀式が始まった。ケンジの祖母だという故人は、白い布に包まれ、筵（むしろ）の上に横たわっていた。その姿は、まるで生きているかのように、わずかに膨らんでいるように見えた。アヤノは目を凝らしたが、薄暗闇の中、はっきりと見ることはできなかった。"
"村人たちは、奇妙な詠唱を始めた。それは弔いの言葉というよりは、何かを封じ込めるような、呪文めいた響きだった。その声が響くたびに、故人の体が微かに震えているように見えた。アヤノは、気のせいだと思いたかった。"
"故人は、掘られたばかりの深い穴へとゆっくりと下ろされていった。その瞬間、布の隙間から、黒く、ぬめぬめとしたものが一瞬見えた気がした。それは、人間の肌とは似ても似つかない、異様な質感だった。アヤノの心臓が、嫌な音を立てて跳ね上がった。"
"村人たちは、一斉に土をかけ始めた。シャベルの音が、アヤノの耳には、まるで何かを叩きつけるような音に聞こえた。土がかけられるたびに、故人の体が、まるで息をしているかのように、大きく波打った。"
"その時、アヤノは気づいた。これは、故人を弔う儀式ではない。これは、何かを、この土の下に、永遠に閉じ込めるための儀式なのだと。そして、その「何か」は、まだ生きている。"
"アヤノは、ケンジを見た。ケンジは、無表情に土をかけ続けていた。その横顔は、アヤノが知っているケンジとは、まるで別人だった。彼の目には、狂気にも似た光が宿っていた。「ケンジ…！」アヤノは、思わず声を上げた。"
"ケンジは、ゆっくりとアヤノの方を振り向いた。その口元が、おぞましく歪んだ。「君も、ここで、ずっと僕たちと一緒だよ」。アヤノの足元から、黒い泥のようなものが這い上がってくる。村人たちの影が、アヤノを飲み込むように迫っていた。"
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